徒然なるままに ~カオハガン島

「世界うた旅・フィリピン編」という番組(NHK)を見ていました。日本の歌を愛する外国の人が喉を競う、というユニークな番組で、結構皆さん上手いのです。この日はフィリピン編、入り組んだ市場の中にカラオケセットを置いている店があって、ある若者がジェイポップか何かをプロ歌手そこのけで聴かせてくれました。ボ~つと見ていた所、突然聞き覚えのある単語が幾つか耳に飛び込んで来たのでビックリ、「崎山さんのお陰で私立大学に行けました、サキのお陰で人口も増えたし観光客も増えたよ、とカオハガン島の人々は喜んでいます」、健康そうに日焼けした男性が画面に登場しています。
「え?カオハガン? え?崎山?」すぐに脳裏に浮かんできたのは一冊の本「何もなくて豊かな島」、青い海に浮かぶ小さな島の写真の表紙と崎山克彦という著者の名前でした。
この本に出会ったのは1996年頃、前年シンガポール勤務を終えて帰任、まだ“東南アジア”が抜けきらない時期でした。4年弱駐在した東南アジアでは取材の関係で多くの島々に行きました。この本に出てくるカオハガン島も読むだけで情景が浮かんでくるようでした。
著者の崎山克彦さんは1991年、勤めていた講談社を退職し、フィリピン、セブ島の沖にある小さな島、カオハガン島を購入し移住してしまいます。以来350人の島民とともに美しい自然の中で島の教育、医療、産業、などを整備し、ロッジや公共トイレ、宿泊設備を設け、グリーンツーリズムの精神に基づく観光を島の収入源にしているそうです(ウィキペディア)。テレビで見た若者はこの資金で私立大学に行けたのでしょう。
私が本を読んだ1996年頃は、まだ島にはトイレがなく、島民は屋外で用をたす事、何かあれば(なくても?)、ラムコークで乾杯、とか、のんびりした中にも長い間、ゆっくり続いてきた島の生活が紹介されていました。その2年後、「青い鳥の住む島」という続編が出ました。日本から友人、知己、最初の本を読んで定期的に訪れる人たちなど段々と形作られていく日本との関係、支援態勢が語られています。ただ「何もない、豊かな島」という基本型」は変わっていません。
先日の番組に出てきた崎山克彦さんは本の表紙で見た写真をそのまま年を取らせたような、日焼けして精悍な好々爺という感じに映っていて島民と楽しそうに話していました。充実した30数年だったのでしょうね。
当時、私は何とか一度はカオハガンに行ってみたいと思っていたのですが、日常生活をしているうちに、いつの間にか忘れてしまっていました。
書棚から取り出し、埃を払いながら南の島の生活に思いを馳せています。
関西テレビ 出野徹之

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