新年度になると各オーケストラも新しいプログラムがスタートします。初来日の指揮者、演奏家を聴けるのも楽しみの一つです。5月例会は、大阪フィルハーモニー交響楽団の第588回定期演奏会(5月17日)をフェスティバルホールで聴きました。クラシック同好会を認知して頂いて、毎回、2階の5列目を用意してくれます。実はこの辺り良い音が聞こえるのです。
今回の指揮者はドイツ人のゲオルク・フリッチュ、日本のオーケストラを指揮するのは初めてだそうで、ウエーバーの歌劇「オイリアンテ」序曲、シューマンのピアノ協奏曲、R・シュトラウスの2曲、交響詩「ドン・ファン」、交響的幻想曲「影のない女」を聴きました。
広いフェスティバルホールに大フィルサウンドが響きます。初共演ですが、フリッチュの手の内にすっかり入っているみたいで快調な滑り出し。
2曲目のピアノ協奏曲はミシェル・ダルベルトの演奏。勿論素晴らしかったのですが、聴衆を泣かせたのはアンコール、「4つの最後の歌より“眠りにつく時”」という曲なのですが、演奏に入る前にコンサートマスターの崔文洙に何やら耳打ち、静かに曲が始まりました。数楽章進んだところでコンマスが立ち上がり、すすり泣くようなメロディを合奏するのです。後で聞くと「ダルベルト編曲」との事でしたが、私の涙腺が緩み、隣の女性会員もハンカチを使っています。「ダルベルトさん、ずるいよ」アンコールに、こんな曲を聴かせるなんて、と思いながら何故か涙が出る一曲でした。静かな、静かな拍手が沸き起こりました。
様々な事情があって本当に久しぶりに参加した同好会員の一人は「矢張り、生演奏をホールで聴くのは良いですねぇ」と感慨深そうでした。更に充実させてくれたのはプログラム後半、R・シュトラウスの2曲でした。
「ドン・ファン」は人名なので解るのですが、「影のない女」は何だろう?と解説を読むと霊界と人間界の話で、「影」とは「子を宿す力」、面白い発想をするものだと感心しましたが、フリッチュは近年、R・シュトラウスの作品を数多く演奏しているそうで、実に充実した2曲でした。豊かで温かく厚みのある「じわっと心に浸み込んでくる音色です。例会、ほぼ皆勤賞の女性会員の言葉を借りましょう。「ロシアのオーケストラの演奏みたい」。実は、私も、かつてヨーロッパのホールで聴いたサウンドを思い出して不思議な感覚に襲われたのです。フリッチュの魔法にかかった例会でした。
世話人 出野(KTV)