ハーフタイムが一週間

ハーフタイムが一週間
鈴木優(KTV)

それはまだ昭和も半ば、ミトマもメッシもサワホマレも生まれていない頃のことです。ニッポンがワールドカップに出場するなど夢のまた夢。韓国には連戦連敗で「永遠の格下」、フィリピンにもタイにも勝てない全日本でした。赤子のマラドーナがラプラタ川で産湯を使い、酒も女も知らない三浦カズが富士山麓を駆け巡っていた頃、片田舎の高校生だった私はサッカーに明け暮れていました。

その同窓会が三河の時習館高校であり、昔のサッカー部仲間が久し振りに再会して当時の蹴球談義に花が咲きます。私のポジションはライトウイング。今風に云えば「守備をしないサイドアタッカー」。何や、それ? ですよね。クライフとベッケンバウアーがトータルフットボールや新生リベロでフォーメーションをズタズタに破壊するまで世界のサッカーは古典的な分業が完成していました。そんな中で、自殺点を献上した中学時代のゴールキーパーは自ら死を選び、サドンデスで得点したシャイなボランチは突然の病没。因果とボールは巡り、味方のバックパスをキーパーが手で取れた古き良き時代にはもう戻れません。

飲むほどに酔うほどに勝手なドリブルは躓き、パスは乱れ、ゴールは全く見えません。その中で一番盛り上がったのが「ハーフタイムが一週間」の話でした。当時のサッカー少年は毎週土曜日夕方の「三菱ダイヤモンドサッカー」を楽しみにしていました。何せ間近に迫ったW杯西ドイツ大会のスター選手の試合をテレビで観られるのです。しかし放映時間はたったの30分、正味23分程です。前半戦がダイジェストで、しかもCM入りで放映されて、後半戦は翌週の同じ時間。普通は「えっ?試合の結果分かっちゃってるじゃん!」となりますよね。
でもご心配なく。その間に海外サッカーなどを伝えるテレビも新聞もましてやネットなどはなく、僕たちはワクワクしながら翌週の後半戦に臨むのでした。情報が直ぐに伝わり氾濫している今の世界が本当にシアワセなのか、少し考えさせられる一晩でした。

翌日は母校の練習場で青春時代を懐かしんでの記念撮影。そうや、昔はピッチがグラウンド、サポーターが応援団、副審はラインズマンでしたなあ。黄金時代のスリートップも半世紀経ってご覧の通り、キックの真似だけでフラフラの超オーバーエイジ枠になっていました。

鈴木優(KTV)

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