徒然なるままに ~言の葉 さやげ~

 

徒然なるままに ~言の葉 さやげ~
関西テレビ 出野徹之

 花神社発行の、この本に出会ったのは2012年頃だったと思います。大阪梅田の、大阪富国生命ビルが新しく建て替えられて、「4階にフリースペースがある」と友人が教えてくれました。ある日、時間をつぶそうと、ふと思いだして立ち寄ってみました。「アサヒ・ラボガーデン」という部屋で、PCが使える大きなテーブルが10卓くらいあったでしょうか。他に2,3人が座れる丸テーブルが4,5卓、楽しいのは大きい壁面に様々なジャンルの本が沢山並んでいる事でした。アサヒビールが運営しているので、ビールや醸造、植物などの書籍があります。他にも建築や旅行などちょっと座って本を読みながら快適に時間を過ごせる“オアシス”のような場所だという事が、通っているうちに解ってきました。

 「知る人ぞ知る」場所のようで、学生が多く、若いサラリーマン風、私のようなリタイヤー風など利用者も様々です。
入り口で、大きなタッチパネルに年令、性別、仕事などを入力すればだれでも利用でき、ビールや清涼飲料などの販売機を利用する事ができます。
そこで出会ったのが、詩人・茨木のり子の「言の葉さやげ」という本でした。

 「言葉に関して書いたものが散見されるようなので1冊のほんにまとめてみませんか」という事で1975年に出来上がった、この本は、日本語を使う事を生業としてきた身には、大変興味深いものでした。

 茨木のお母さんは東北山形の人、
東北弁を恥じていたというエピソードは、そのまま私の母の姿でした。ただ母は岩手の産でしたが、特に東北弁を恥じてはいませんでした。むしろ遠く岡山の地に疎開したので、懐かしんで岩手・水沢の言葉を私たちに教えたがっていました。

勿論、詩人にまつわる話もあって、特に面白かったのは井伏鱒二の「逸題」の中の一連。

  春さん蛸のぶつ切りをくれぇ

  それも塩でくれぇ

  酒はあついのがよい

  それから枝豆を一皿

この本が好きで、ラボに行く度に繰り返し愛読していたのですが、コロナ禍が少し収まったある日、行ってみると、この部屋が閉館になっていました。沢山の本や「言の葉さやげ」はどうなっただろうと思いましたが、調べてみると2018年2月に閉館した事が判りました。おそらくコロナとは関係なかったのでしょう。2011年から2018年までわずか7年間ではありましたが、採算を度外視した、人々の気持ちを豊かにしてくれる、素晴らしい空間でした。

 「言の葉さやげ」は絶版で、最近、姫路の「あまかわ文庫」がネット販売している事が判り送ってもらいました。キチンと包装し丁寧に扱われたと思しき本が届いて、これも心が温まりました。改めてゆっくり、「春さん」の詩を読んでいる徒然の日々です。

関西テレビ 出野徹之

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