【落語】 桂小文枝がトリの繁昌亭・昼席を鑑賞

桂小文枝がトリの繁昌亭・昼席を鑑賞

 今年度最初(6月28日)の「落語(上方芸能)を楽しむ会」例会は、天満天神繫昌亭・昼席を鑑賞した。特筆すべきは参加人数、久々に30人を超え32名もの参加申し込みがあった(当日1名減で31名が参加)。コロナ禍で長きにわたって外出自粛を余儀なくされてきたのが、ようやく5月のコロナ5類移行で制限が緩和され、マスクも個人判断となった。皆さん、気兼ねなく外出して大いに笑いを楽しみたい、という望みが大きかったのだろう。実は当初22名で繁昌亭を予約していたのだが、皆さんの反応のよさに驚き、あわてて予約の追加を行った次第である。

 当日の演目を紹介しよう。開口一番は桂二豆の「狸の賽」、ばくち打ちに命を救われた子狸が賽に化けて恩返しをする、というユーモラスな噺である。続いては、桂紋四郎「延陽伯」、言葉使いがやたら丁寧な妻を娶ったために起こる珍騒動を描いた噺で、江戸落語では「たらちね」として知られている。次は、女流の桂三扇によるこの日唯一の新作落語「じいちゃんホスト」(桂三枝作)で、高齢者ばかりのホストクラブの噺である(どこかで聞いたことがあると思ったら、昨年12月例会「歳末吉例女流ウィーク(繫昌亭)」と同じ演目だった)。この日の色物は2つともユニークな出しものであり、まずは好田タクトの「指揮者形態模写」。朝比奈隆、佐渡裕、カラヤン、レヴァインなど古今東西の名指揮者の形態を模写して演じる。さすがに元の指揮者を全く知らない人が見て大丈夫かな、と心配になったが、お客さんの反応はまずまずだった。続いて桂ちょうば「馬の尾」。釣り好きが馬の尾の毛を抜いてテグスの代わりにしたところを酒好きに見咎められ、酒を奢らされる噺である。仲入り前は、桂吉弥による「蛸芝居」。登場人物全員が歌舞伎好きで何事も芝居に結び付け、果ては皆に食べられそうになった蛸までもが芝居がかりで逃げてしまう、という上方落語・芝居噺の代表作で、笛・三味線を伴い華やかに演じきった。蛸のコミカルな顔真似も笑いを誘い、仲入り前にふさわしい熱演だった。

 仲入り後も若手による古典落語が続く。まず、笑福亭智之助の「半分雪」、江戸での修行から大阪に戻った超大柄な相撲取りにまつわる、ナンセンスな噺である。続いて林家竹丸が「紀州」を演じた。7代将軍急死を受け、尾州侯・徳川継友と紀州侯・徳川吉宗が跡目を争う噺で、鍛冶屋の立てる音が重要な役割りを演じる。

 ここまで7人の噺家が登場したが、特筆すべき事実があるので紹介しておこう。それは、7人全員が大学卒ということである。最初の桂二豆が関西学院大学、桂紋四郎が大阪大学(大学院中退)、桂三扇が甲南女子大学、桂ちょうばが阪南大学、桂吉弥が神戸大学、笑福亭智之介が姫路獨協大学、林家竹丸が神戸大学(卒業後NHKで取材記者)のそれぞれ出身である。大学で落語研究会に入り、落語の魅力にとりつかれてそのまま落語家に入門する、という最近の落語家のひとつの傾向が見受けられる。

 トリ前の色物は、これも珍しい竹内獅士丸による「津軽三味線」で、ダイナミックな妙技を聞かせてくれた。トリをつとめたのは桂小文枝である。2019年に桂きん枝から四代目・桂小文枝を襲名して古典落語の継承にも力を注いでいるが、この日は桂米朝作の「一文笛」を披露した。スリの男が貧しい子供を助けようとして、駄菓子屋から一文の笛を盗んだことから大騒動を引き起こす、という噺で、米朝の弟子・桂ざこばからつけてもらったそうだ。起伏のあるストーリーを感情こめて見事に演じ切り、実力の片鱗を見せてくれた。

 終演後は、いつものように恩田元支配人(民放クラブ理事)の仕切りで、トリをつとめた桂小文枝師匠を迎えて客席でお話を聞くことができた。4年前の四代目襲名の時のことや、かつての四天王(松鶴・米朝・春団治・文枝)に関する秘話の数々、桂米朝が決して演じなかった3つの演目(鋳掛屋・天王寺参り・船弁慶)など、貴重なお話しを次々に披露していただき、充実した時を過ごす事が出来た。小文枝師匠、恩田さん、本当にありがとうございました。

              「落語(上方芸能)を楽しむ会」世話人 髙井久雄(KTV)

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