【定例懇話会】「これでよいのか、日本の国際報道」

関西民放クラブ第37回定例懇話会

  ヴァージル・ホーキンズ教授

 2023年6月26日午後2時から梅田ガーデンシティクラブ大阪で、大阪大学大学院国際公共政策研究科のヴァージル・ホーキンズ教授(49歳)を講師にお招きし、「これでよいのか、日本の国際報道」と題して講演して頂きました。(参加者39名)
氏は在日30年、日本のマスメディアの内情にも精通しておられる気鋭の国際政治学者です。「私は何人でもありません。地球人です」とおっしゃる、人懐っこい温厚な人柄、パワーポイントを使い、豊富な図解資料で国際報道の現状・問題点等を分かりやすく解説され、会場の皆さんは氏の話に引き込まれ、あっという間に1時間半が過ぎました。

 講演の内容は以下の3つです。
1 国際報道の現状
2 国際報道の偏り
3 偏りがもたらす問題点

1 国際報道の現状
 グローバル化が進む中、日本の新聞報道で国際報道の割合は10%前後。また「国際報道の分配」も問題です。大手メディアの扱う国の1位は断トツでアメリカ、2位は中国、3位が西ヨーロッパです。
(今年はウクライナ、ロシアが1位になると予想されます)
南半球のアフリカや中南米は殆どありません。

2 国際報道の偏り
 何故、国際報道に偏りが見られるのか。その理由として
・政府が注目しているか ・裕福か貧困 ・日本からの距離が近いか遠いか
・白人か黒人か ・日本と関係が深いか ・自国への影響が大きいか
・世界での影響が大きいか ・ストーリー性があるか
等が挙げられます。
紛争報道にも格差が見られます。昨年1月から6月でロシア・ウクライナ問題が94.7%を占め、死者数が最も多かったミャンマーの報道はたった0.2%です。紛争の規模と報道量に乖離がみられます。コンゴ共和国の内戦では朝鮮戦争以来の約300万人が犠牲になりましたが、殆ど報道されませんでした。
5人の富豪が行方不明になったタイタニック潜水艇事故は大きく扱われ、一方、その一週間前に地中海で750人の移民が行方不明になった海難事故は殆ど報道されていません。移民入国を厳しく規制すべしとの話が出るなど、難民救済には繋がりません。

3 偏りがもたらす問題点
 世界的な気候変動の影響で、東アフリカでは過去40年で最悪の干ばつが起こり、3,000万人が被害を受けています。
この報道にも問題があるのです。これを防ぐための対策を講じよう、援助すべきとの報道はされていません。
環境破壊や気候変動は先進国の経済活動に原因あり、強く主張できない側面があるのです。アフリカの事案は日本が国際的にリーダーシップを執るチャンスであったのに、日本はこの問題の対策会議に出席せず、1円も援助していません。
実は日本政府の対米追従の外交方針に沿って国際報道がされているとのご指摘がありました。紛争報道ではアメリカが肩入れしている国側からの視点で報道されているのです。

 このような国際報道環境の中で育った日本の若者が社会の中枢部分(外務省、ジャイカ、商社等)に就職し、国際社会で日本の国際協力が誤った方向に進んでいかないか危惧をされていました。

 今回の講演会では、いつもとは違う新鮮に感じることがありました。
質疑応答の時間で、ベルリン支局に勤務されたことがある現役の若手女性記者が、苦労した体験を述べられたのです。ご自身は環境問題を取り上げたかったのですが、上司から紛争報道を求められたそうです。

 最後に、ホーキンズ氏から日本には志を持った若手の報道マンがいる。頼もしい限りです。政治の番犬役として日本のメディアに期待したいと締めくくられました。

 字数に限りがありますので、講演会の内容を網羅できませんが、興味のある方は「グローバル・ニュース・ビュー」Globalnewviews  (https://globalnewsview.org/)
是非ご覧下さい。報道されない世界と国際報道について解説し、問題提起をするポッドキャストです。

文責 関西民放クラブ 理事 川崎 宏

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