酔いしれた「おわら風の盆」
初めて「おわら風の盆」に行ったのは、2004年の事、富山に住んでいる従妹の案内で東京の友人とともに訪ねた。富山市八尾で毎年9月1,2,3日の開催される「風の盆」に触れたのはNHKのドキュメンタリーで、その魅力にすっかり捕らわれ、いつか訪ねたいと思っていたのだ。「風の盆は」江戸時代の元禄期に起源をもつといわれ、五穀豊穣や二百十日の風封じを祈る八尾の地元住民の祭りであったが、近年その魅力が広く伝わり、毎年3日間で20万人もの人が訪れる人気の行事となった。これは、作家・高橋治氏の小説「風の盆恋歌」(1985刊)に依るところが大きいとされている。加えて石川さゆりが、同名の曲を歌い、これも大ヒット、映画、テレビドラマにもなった。今では旅行会社は競ってツアーを組み、観光バスが押し寄せている。因みに高橋氏の小説は、あるジャーナリストが思い人との逢瀬のためにだけ、八尾に家を買い「風の盆」の時に、二人が忍び合うという大人の男女の情念を描いた恋物語である。高橋氏は、まず「風の盆」を知って、その品格ある踊りと八尾の情緒あふれる町に魅せられ、この小説を書いた、むしろ「風の盆」そのものの魅力を描きたかったということである。
そして私は、初めて風の盆を訪ね、すっかりその魅力に取りつかれ、東京の友人を送り出した後、その翌日も従妹とともに「今夜も行こう!もう一度見たい!」と連夜見物に出かけたのである。顔が見えないほど深くかぶった編み笠の男女の踊り、三味線、太鼓、おわらの地歌、そしてむせび泣くような胡弓の音色が相和して、得も言われぬ情緒を醸し出す。今は11の町内がそれぞれの衣装で踊り、また夜の街を流していく。優雅な女性の踊りに黒の法被に猿股、黒足袋姿の切れのある男の踊りが、呼応する。町それぞれの特徴ある踊りと演奏が見どころで、夜8時ごろから夜中まで、時には朝方まで踊りは続く。観光客が参加できる輪踊りもある。
八尾は坂の町ともいわれ、観光客はそれぞれの町の踊りを見ようと坂を駆け回っていく。男踊りが素晴らしい鏡町、かつて養蚕業で栄えていた古い建物が並ぶ坂の町・諏訪町の踊りは、必見である。ツアー客は大体夜11時ごろには帰っていくので地元の人は「さあこれからが私たちの祭り」と、踊りはまた続いていく。近年は、それを知った観光客が夜中まで、軒下に座り込んで地元の踊りを待つ・・・まさに体力勝負で、眠る事も出来ない。地元に宿はほとんどなく、私も富山市内に宿をとり、タクシーや、バス、列車で訪れる。一度は12時過ぎの最終列車で帰ったこともあった。私は初めて訪れた後、3回も出かけた。最後は2014年である。もう体力がない、風の盆も卒業、と思っていたのに、MBSの辻一郎さん、井上千津子さん、志風洋子さんらに一度連れて行ってと強く乞われ、コロナで中止していた風の盆も昨年から再開されたとあって、遂に今年の風の盆を見に行くことになった。参加者はもっと増えるかもしれない。「えらいこっちゃ!もうひと頑張りするか!」宿の手配などそろそろ準備をしなくては!
(「風の盆」については、私のつたないエッセイ集「ハーブティーをもう一杯」に、詳しく記載している。事務局に置いてありますので、よろしければお読みいただければうれしいです。)