恐るべし、アジアン・ムービー

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「恐るべし、アジアン・ムービー」

 

 今年のアカデミー賞主要部門を総なめにした「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を京都の映画館で観てきました。その快挙に気にはなっていたものの、私は「ワープ・チェンジ・パラレルワールド」ものが大嫌いで、「マルチ・バース」(多元宇宙)の快作と云われた同作に食指が動かなかったのです。だって時代を飛び越えたり男女の身体が入れ替わったり別世界へいくのはそれ自体が劇的なので、ドラマ作りの面白さが味わえない気がするのです。

 案の定、映画の導入部で早速つまづきました。おいおい、むちゃくちゃやんけ!真面目にやらんかい、と席を立とうとしましたが、折角シルバー料金で確保した時間が惜しくもあり我慢していると…あらあら不思議、その無茶苦茶で不真面目と思われた展開の中にギャグとアクションが程良く詰まっており、なんだかワクワクしている自分がいました。最初スジなどを追っていたのを放棄し、何も考えずに唯ぼんやりスクリーンに映る光景を眺めているとグイグイ引き込まれ、渡辺直美似の娘の怪演に思わず爆笑。また得意のワイヤーは使っているもののへんなCGに頼らず生身のアクションとカメラワーク、編集で見せる技は侮るべからず。先輩のカンフー役者が半世紀前に「ドント・シンク、フィ~ル!(考えるな、感じろ!)」と戒めた教訓をしっかり体現している後輩たちでした。そうそう、映画的記憶で云えば、観ている間中ある一人の映画監督の顔が浮かびましたが、その名はスタンリー・キューブリック。私だけでしょうかね?「2001年宇宙の旅」や「時計じかけのオレンジ」のタッチと精神をも受け継いでおります。

 事前に情報や映画評を一切見ない私ですが、後でちらりとスマホを覗くと、「完全なる駄作」「ほめる人は自意識過剰のタカビー」なる予想された酷評の中に「家族の真の愛の物語」と云う感想があり、私は全くこれに同感でした。娘があっちの世界に引き込まれるのを抱き止める母の後ろを、敵対していた父と頼りない夫が連なってしがみ付くシーンに思わず涙が出そうになったのも私だけですか?

 いやいや、あまり褒めると期待して観に行った人からの大ひんしゅくを買いそうですのでこの位にしておきます。「なんでこれがアカデミー賞?」との疑問には、「おそらくハリウッドはぶっ飛んでずっこけて、完全にスルーするか、グランプリにするかのどちらかしかなかった」からだと私は分析しています。

 しかし「パラサイト」(韓国)といい「RRR」(インド)といい、最近のアジア映画はアッパレですね。くたばれ、ハリウッド!頑張れ、ニッポン映画!と叫びましょう。

鈴木 優(KTV)

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