徒然なるままに ペルナンブコ
「ペルナンブコ」って聞いたことがありますか?私が初めてこの単語に出会ったのは2007年、日本(大阪)センチュリー交響楽団に出向していて、ある
タブロイド紙にオーケストラの話を連載していた時の事です。
様々な楽器や演奏者のエピソードを書いていたのですが、ヴァイオリニストと弓の話を書こうと楽器店の社長を訪ねて「ペルナンブコ」の事を知りました。ヴァイオリンの弓には約160本の白馬の尻尾が使われているそうです。センチュリーの女性ヴァイオリニストが親子コンサートで、この話をしたところ、子供達が「かわいそう~」と言ったそうですが、いえいえ、引っこ抜いたりしません。長くなったのから切っていくそうですからご安心を。
毛を張るスティックがブラジル産の「ペルナンブコ」という木なのです。高さは約15メートル、太さ1メートルほどで弓用に育つには約80年かかるとのこと、硬い木なのでソリを持たせるのが大変なのですが元に戻りにくい特徴があります。当時のコラムにも「今や乱伐で10年くらい先まで国外持ち出し禁止になっているとか」と書いています。
久しぶりにこの名前を目にしたのは9月29日、朝日新聞夕刊でした。「弓のストラディバリウス・危機」と大きく報じられていました。ペルナンブコが絶滅の危機に瀕しているとして産地ブラジルが「商業取引の全面禁止」を提案しているのだそうです。2007年にワシントン条約で、国際取引には輸出国による許可書が必要な植物に指定されたそうですが、その後も違法な伐採や密輸などが相次いでいるとして産地ブラジルは「ワシントン条約で一番厳しい移動条件を設定しよう」と呼びかけているそうです。
ペルナンブコ材の弓は日本でも多くの演奏家が使っています。親交のある著名なヴァイオリニスト、天満敦子さんからは「良い弓が2本手に入りました」とわざわざ手紙を頂くなど、ヴァイオリニストにとっては楽器本体と同じくらい弓は大事なものなのです。
ブラジルの提案が通ると、国境を越えて楽器を移動させる時、詳細な事務手続きが必要になるという事で、演奏家からは様々なリスクが発生すると反対の声が上がっているそうです。
私たちの日常には余り関係のない話かも知れませんが、クラシックコンサートに行かれた時、ヴァイオリン、ビオラ、チェロなどの弓には、結構大きな国際問題が関わっている事をちょっと思いだしてみて下さい。
関西テレビ 出野徹之