徒然なるままに 野外コンサート
未だ暑い日が続いていますが、もう9月になりました。夏の想い出に野外コンサートの話題を3題、先ず身近なところから。
大阪豊中市に拠点を持つ日本センチュリー交響楽団は服部緑地公園に練習場があり、隣には野外音楽堂があります。ここでは毎年、「星空ファミリーコンサート」と題して8月最後の土・日曜日、無料のコンサートを開催しています。今年で27回目、天気にも恵まれ、家族連れなど2日間で2827人と過去最高の入場者があったそうです。このコンサートはセンチュリー響が大阪府によって創設されて以来、府民サービスとして続けられていて、補助金をカットされ「民営化で生き残れ」と突き放された今でもクラウドファウンディングなどで継続、市民に喜ばれています。私は2002年から7年間、関西テレビから出向してオーケストラの運営に当たったのですが、毎年「星空」の時期になると天気が気になって毎日のように関西テレビ気象予報士に電話していました。
当日は事務局員総出で野外音楽堂の椅子の雑巾がけ。約1700の固定椅子を拭き、周辺の掃除をしたり、「緑地公園」駅からの案内看板を立てたりしてお客さんを待ちます。当時、私の肩書は常務理事兼事務局長という現場で“一番エライ”人でしたが、コンサートが始まり、薄暮から夕闇へと変わる頃には懐中電灯を持って自転車でやって来るお客さんの誘導に当たります。毎年やっていると顔なじみも増えて楽しい年中行事でした。
演奏は勿論、日本センチュリー交響楽団、後に、関西テレビ青少年育成事業団とともに創設した、センチュリーユースオーケストラも加わりコンサートが充実、今年は姫路のユースオーケストラも来演、交流が行われたようです。
馴染みのあるクラシック曲の数々が2日にわたって演奏され、指揮者体験コーナーでは観客の迷指揮ぶりが会場を大いに沸かせます。
野外音楽堂へは、北大阪急行「緑地公園」駅から徒歩5分です。クラウドファンディングへの寄付も宜しくお願いします。
1991年 から4年ほど、シンガポールで特派員生活を送りました。支局は街の中心部オーチャード通りに面したビルにありました。下の階には伊勢丹デパートや有名な中華レストランがあり便利この上ない環境でした。このオーチャード通りの西の端に「ボタニックガーデン」という国立植物園があります。入り口には石柱のゲートがあるだけ、入場は無料です。私のとても好きな公園で在任中何度となく訪れました。東京ドーム13個分と言われる広さで、熱帯の様々な植物に出会えます。シンガポールの国花にもなっている“欄の花各種”を見ることが出来る、オーキッドガーデンだけは有料ですが、そこ以外は広大な園内を自由に散歩、ランニングできます。近代的な高層ビル群の中心街にあって、ここだけは別天地、正にオアシスと言って良いでしょう。
ボテニックガーデンはイギリス統治下の1859年、東南アジア植物研究所として設立され、ゴムや蘭の研究が行われました。その後、蘭の栽培、輸出はシンガポールに大きな収益をもたらすことになります。2015年、シンガポール唯一の世界遺産に登録されました。
この広大な地域の使い方、修復、将来構想などを担当しているのが日本人、しかも関西在住の方、というのは余り知られていません。国父、リー・クアンユー氏に見込まれて今でも、関わっておられると聞きました。在任中に知り合い、古今のシンガポールについて多くの事を教えて頂きました。さて、このボタニックガーデンでは、広い芝生席を使って無料コンサートが開催されます。シンフォニー湖のほとりに立つステージで、ジャズ、楽器演奏など様々なコンサートが行われ、観客は向かいの芝生に陣取って、サンドウィッチ持参、ワインとチーズなど自由なスタイルで音楽を楽しみます。シンガポールは常夏の島なので年中開催しています。私の在任中は毎月最終土曜日だったのですが、旅行に行かれる際は情報を確認して下さい。
正に「ピクニックコンサート」と呼ばれているのはドイツ・ベルリンのコンサート。しかも、かのベルリンフィルハーモニー交響楽団が演奏する無料コンサートです。
2009年、旧知の方から“ドイツ・オーストリア音楽の旅”に誘われました。
ベルリンフィルの「ピクニックコンサート」を聴きドレスデンで歌劇「サロメ」を、ウィーンで歌劇「メリーウィドー」を観るという旅でしたが、関西空港で同行の方に会ってビックリ。数週間前に会ったばかりの元京都市交響楽団の木管楽器奏者、夫人のヴァイオリン奏者と友人のヴァイオリニスト、旧知の音楽好き老婦人、気の置けない旅になりました。
ベルリンフィルの「ピクニックコンサート」は、“ヴァルトビューネ”(森の舞台)と呼ばれる野外音楽堂で毎年6月に行われます。ここは市民の憩いの場になっていてサッカースタジアムやアイススケートリンクなどとともに大きな森に包まれています。2万人収容と言われる観客席は横長の木の椅子や芝生席などがすり鉢状になっていて、底の部分に巨大テントの野外ステージがあります。
指揮はサイモン・ラトル、樫本大進がコンサートマスターに内定した直後で、世界的なピアニスト、ブロンフマンがラフマニノフを弾くという、ホールで聴いたら数万円という贅沢なコンサートです。「ピクニック」ですから皆、軽食とワインボトル持参、あちこちで、宴会やダンスが始まります。我々も売店のビール、サンドウィッチで腹ごしらえ。
ホテルを出る時から予報は雨、コンサートの途中から降って来ましたが、観客は勿論誰も席を立ちません。むしろ雨を楽しんでいる様子です。我々も覚悟を決めてお付き合い。アンコールの数曲が終わって次のイントロが始まるや否や、観客が「待ってました!」といった感じで立ち上がるではありませんか。どうやら最後の、しかも定番の曲らしいのです。
そして、あろうことかバッグから手持ちの花火を取り出して、一斉に振りながら歌っています。手拍子をとり、指笛を鳴らして盛り上がっています。入場の時、確かに手荷物検査があったはず、日本だと花火は先ず、許可されないだろうと思いながらも“行進曲風の”この曲を一緒に楽しんでしまいました。
後で聞くと、ベルリン・オペレッタの父と言われる、パウル・リンケ作曲の「ベルリンの風」という曲でオペレッタにも挿入されたのだそうです。“ベルリン市歌”とも“ベルリン賛歌”とも呼ばれて市民に愛されている曲だと解りました。
ウィーンフィルのニューイヤーコンサートで最後に演奏される「ラデツキー行進曲」のような位置づけですが、こちらは皆が立ち上がって歌います。
雨の中、会場一杯に詰めかけた観客が、声を揃えて歌う風景はとても感動的で、矢張りドイツ、オーストリアは“音楽の国”なんだ、と本当に羨ましくなりました。
野外コンサート3題、如何でしたか?来年はスケジュールを合わせて行ってみて下さい。それまでに世界中でコロナが収まっていますように、と祈りながら。
出野徹之 関西テレビ