徒然なるままに
カンゲキ日記 「桜姫」
岩渕輝義
シネマ歌舞伎、鶴屋南北「桜姫東文章」上巻・下巻を観ました。片岡仁左衛門と坂東玉三郎との36年ぶりの顔合わせで昨年上演されたものです。
上巻では、僧 清玄(仁左衛門)と稚児の白菊丸(玉三郎)の心中場面から始まり、生き残ってしまった清玄が17年後に、白菊丸の生まれ変わりである桜姫(玉三郎)と再会します。桜姫は家宝を盗賊に奪われたあげく、父を殺されて出家を心に決めますが、かって暗闇のなかで自分を犯した男の子供を密かに産み落としていました。ある日巡り合った釣鐘権助(仁左衛門の二役)こそがその男と知ります。しかし彼が盗賊とは知らず、再び権助に身を委ねますが、密会の相手が清玄と間違われて清玄ともども流人となります。
下巻では、桜姫は権助と一緒になり女郎屋で働かせられます。そこへ桜姫に執着する清玄が現れて桜姫を殺そうとしますが逆に殺されてしまい、幽霊となって付きまといます。この殺しの場面にいたる筋立ては、悪党の権助を中心に見ごたえのある展開が続きます。また女郎となった桜姫が、伝法な女郎言葉と、たおやかな姫言葉を使い分ける場面、後編を通じた仁左衛門の色悪ぶりが秀逸です。
最後には、家宝を奪って父を殺したのが権助と明らかになり、桜姫が仇を討って家の再興がかないます。歌舞伎史上、最もスキャンダラスでドラマチックな物語と言われますが、とても江戸時代の作品とは思えない濃密な舞台でした。
近年は世界最高峰の舞台を映画館で上映する機会が増えました。私の一押しはメトロポリタンオペラのライブビューイングです。6月には現代最高のソプラノ歌手、A・ネトレプコが「トゥーランドット」を歌います。ぜひご覧ください。
2022年5月16日 岩渕輝義