「初春文楽公演」 コロナ禍の文楽鑑賞

コロナ禍の文楽鑑賞

 落語を中心として、上方芸能全般を幅広く鑑賞する関西民放クラブの名物同好会「落語(上方芸能)を楽しむ会」の令和4年も、1月18日に恒例の「初春文楽公演」(国立文楽劇場)鑑賞で幕を開けた。昨年も、大阪府に緊急事態宣言が発令されている中での強行開催だったが、今年も、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置こそ発令されていないものの、当日の大阪府の新型コロナ感染者数は5347人と過去最高を更新する中での開催となった。

 昨年末には感染者数がごくわずかにとどまっていたこともあって、26名から参加の申し込みをいただいていた(昨年の参加者は19名)。ところが年明けから感染が日に日に増大し第6波突入が確実視される中、参加を辞退される方が続出するのではないか、と心配したが、当日までの辞退申し込みはわずかに1名のみで、25名の方々に参加いただいた。やはり、恒例の新春文楽鑑賞を毎年楽しみにされている方がたくさんいることを、あらためて認識することができた。

 これまでは「寿式三番叟」を含む第1部を鑑賞し正月気分に浸っていただいていたのだが、今年は趣向を変えて、第2部の「絵本太功記」を鑑賞することにした。これは、武智光秀(明智光秀)が主君尾田春長(織田信長)を本能寺で討った後、真柴久吉(羽柴秀吉)に討伐されるまでの13日間を描く時代物である。今回は、光秀が信長に辱めを受ける「二条城配膳の段」、光秀の母さつきを中心とした一家の人間模様を描く「夕顔棚の段」、そしてこの演目の最大の山場である十段目「尼ケ崎の段」が上演された。この段では、母さつき、息子十次郎をめぐる光秀一家の悲劇と、光秀・秀吉が対峙して大見得を切る睨み合いが描かれる。歌舞伎でも幾度となく上演されている人気の段である。語りは前半・豊竹呂勢太夫、後半・豊竹呂太夫が熱演、光秀の人形は人間国宝・桐竹勘十郎が貫禄の演技、その迫力に客席全体が引き込まれていく。見応えたっぷりの舞台で、この演目を選んで本当によかった、と思った次第である。

 ただ、心配になったのは観客の数だった。我々25名を含めても空席のほうがはるかに多かった。コロナ禍の中でも懸命に演じておられる技芸員の皆さんに報いるべく、我々も客席から応援してこの文化を守っていかねば、と思いを新たにした。

髙井久雄(KTV)

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