関西民放クラブの名物同好会「落語(上方芸能)を楽しむ会」の一年は、毎年国立文楽劇場で「初春文楽公演」を鑑賞することから始まる。本年も1月20日に第一部「菅原伝授手習鑑」を鑑賞することに決め、昨年12月中旬に会員宛に案内状を送付した。申し込み締め切りは1月8日、コロナ禍の先行きが見通せない中で参加者が少ないのでは、と懸念したものの、早速13組16名の方々から参加の申し込みをいただき、世話人3名を加えて計19名が参加することとなった。
ところが、年明けから新型コロナウイルスの感染が全国的に急増し、参加を予定されていた方のうち1名から不参加の連絡があり、1月8日の申し込み締め切り時点での参加者は計18名となる。
感染拡大の勢いはやまず、1月8日に東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県に緊急事態宣言を発出、関西も感染拡大が増え続けて、1月14日に緊急事態宣言が大阪、兵庫、京都、愛知、岐阜、福岡、栃木の7府県に発出されることとなったのは、ご承知のとおり。
この状況下で同好会を開催することは是か非か、世話人の間では意見が分かれた。劇場のほうが昨年の緊急事態宣言時のように休業してしまえば中止せざるをえないが、今回は席数を50%に制限し感染防止策をさらに徹底した上で開催する方向とのこと。また17日までであればキャンセルも可能とのことだったので、結論を15日まで先送りにし、不参加の連絡が今後増えるかどうか、様子をみることとした。ところが、参加を取りやめるとの連絡は1名のみにとどまり、17名が参加を希望、逆に開催されるのかどうかを心配してお尋ねになる方もいた。劇場のほうも休業の動きはない。そこで、山本関西民放クラブ会長の了解をとった上で、予定通り会を開催することを、1月15日に最終決定した。
確かに、緊急事態宣言が発出されている状況下で高齢者が集まる会を民放クラブとして開催することの是非は、議論の分かれるところであったろう。ただ、この状況下でも参加の意思を示されている方々は、この文楽鑑賞を非常に楽しみにされているであろうと思われた。劇場に来る道程でのリスクはあるものの、最初に会費をいただいてチケットをお渡しすれば、後は個々に観劇してそのまま流れ解散で、終演後の記念撮影以外に団体行動は一切ない(例年は終演後に技芸員の方のミニ文楽教室があったが、今年は中止)。また、過去に小さな劇場でのクラスター発生はあったが、大規模な劇場では発生しておらず、特に国立文楽劇場では徹底した感染対策がなされていて信頼できると思われた。加えて、コロナ禍の厳しい状況でも懸命に演じている技芸員の方々に対し、ささやかながらも応援のエールを送りたい、との思いもあって、開催の決断に至ったのだ。
幸い、当日は1人の欠席者もなく、17人全員で「菅原伝授手習鑑」を無事鑑賞できた。とりわけ最後の「桜丸切腹の段」では、竹本千歳太夫の情感あふれた迫真の語り、人間国宝の人形遣い・吉田蓑助の至芸に酔いしれ、皆さん大満足のご様子。緊急事態宣言下ではあったが、開催を決断して本当によかった、と世話人として胸をなでおろした次第である。
髙井久雄(KTV)