私の「想い出の一曲」  ペルシャの市場

 

私の「想い出の一曲」  ペルシャの市場

 最近の表示では「ペルシャの市場“にて”」となっていますが、昔は“にて”はありませんでした。2002年から7年間、大阪センチュリー交響楽団に出向していたころのことです。

 オーケストラをPRして営業収入を上げることと楽団員の意識改革というのが大阪府から私に課せられた要望でした。何故、意識改革か、というとセンチュリーは大阪府が創設したいわば「官製オーケストラ」で、コンサートが少ない割に高収入で楽団員はヒマな時に生徒を教えたり、アルバイトばかりしている、と府議会議員からクレームがある、もっと働けと“意識改革”を、という注文でした。

 実際に入ってみると決して給与は高くないし、皆がアルバイトをしている訳ではないのですが、“のんびり”しているのは確か。
取りあえずは全員に「よりプロ意識を持って演奏をしよう」というミーティングを開いたりして、それまでとは違う方向性を打ち出すことに努めました。

 むしろ楽団のPRは結構大変でしたが、それまであまり積極的に活動していなかった分、様々な手ごたえがありました。
昔取った杵柄、在阪局、新聞社を回って、大阪駅でのミニコンサートなどを取材してもらったり、新しい指揮者に
当時人気の若手を起用したりして話題を作りました。
楽団員は勿論、事務局員も多くが元演奏家。専門家ではない私の頭で何か面白いコンサート、有意義なコンサートが出来ないかと考えていました。

 コンサートに来るお客さんの年齢層は“中高年”と高く、しかも経済的に余裕があります。クラシックコンサート以外にちょっと気軽な演奏会を作れば、コアなクラシックファンだけでなく幅広い客層を呼べるのでは?と「セミ・クラコンサート」が出来ないかと考えました。
セミ・クラシック、何となく懐かしい響きですし、“青春”という印象もあるのでは?と勝手に考えたのです。

 そこで思いだしたのが、田舎の高校生の頃(昭和34、5年)、親友がよく聴かせてくれた「ペルシャの市場」、ビクター発売で黄土色のハードカバー、EPレコード数枚組のアルバムに入っている中の1曲、早速友人に電話しました。
「え~?そんなのあったかなぁ」本人は覚えていないのに他人の私がはっきり覚えていて、「探してくれ」と頼みました。
数日後、「よう覚えとったなぁ、あったわ」と岡山弁で連絡があり、早速借り受けに行きました。事情を話して「暫く貸してくれ」と言ったところ「役に立つならやるよ」とのこと。「軽騎兵」「ツィゴイネルワイゼン」「白鳥の湖」「花のワルツ」なども入っています。中々良いのでは?と楽団の音楽の専門家たちに聴いてもらったりアイディアを話したりしましたが、いまいちノリが悪いのです。「問題は楽譜ですな、セミ・クラシックの曲はあまり長くないですから2時間のコンサートをやろうとするとかなりの曲数が必要、それに楽譜を集めるのが結構手間ヒマがかかります」。やはり専門家、コンサートを企画、実現するためには様々、乗り越えるべき問題があるようです。と言ったわけで実現の運びには至らず、このアルバム私の手元で眠っています。

 数日前、岡山の同級生から、この親友が亡くなったと知らせがありました。夫人に電話したところ、コロナの事が心配で葬儀を知らせなかったとの事でした。

 アーサー・フィードラー指揮、ボストンポップスオーケストラの演奏「ペルシャの市場(にて)」。軽快なリズムで始まり、楽団員の合唱「ラーラーラー・ララララララ~」、続いてエキゾチックなメインテーマが流れます。

 60年ほど前、親友の家で聴いたあの曲、古いEPなので音色は決して良くはありませんが聴いていると楽しかった高校時代を思い出させてくれます。あいつも天国で聴いていると良いなと思いながら、久しぶりにEPに針を落としています。

出野 徹之(KTV)

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