私の想い出の一曲 「草原にて」 ロシア編Ⅰ
「ステェピ・ダ・ステェピ・クルーゴム」というこの曲を聴いたのは、ロシア、サンクトペテルブルクのコローメンスコエという小さな村でした。
2005年8月、以前から興味のあったロシアに行きました。1989年、東の玄関口、ウラジオストックを船で取材訪問していたので西の玄関口を見てみたい、という気持ちもありました。
サンクトペテルブルクはフィンランドと隣り合わせ、ピョートル大帝の建都以来、ロシア最大の文化都市として発展してきたという歴史ある街。見どころに溢れていました。エカテリーナ宮殿、エルミタージュ美術館、マリインスキー劇場、そして本当に愛らしい子供達が通うバレー学校など。
コローメンスコエという郊外の村は、遠くの方まで草原が続いている、辺鄙な田舎でした。観光客向けの小さな売店のそばに電信柱のような支柱が建っていて先端に取り付けられた“拡声器”からロシア民謡(?)が流れていました。
だだっ広い草原を見ながら、その一曲を聴いた時、「あぁ、ロシアに来てるな」と気持ちがゆったりして、壮大な気分を感じたことを思い出します。地の底から沸いてくるような低く太い女性の声がゆっくりと長く草原に響き渡っていくのです。現地のガイドに出発を促されるまで時を忘れて聴いていました。ガイドブックの端に曲名、歌手名を書いてもらい、ツアーに参加していた大阪外大の2人の女学生に訳してもらいました。“ステェピ・ダ・ステェピ・クルーゴム”日本語に訳すと「まわりは全て草原」というような意味だと言います。正にあの情景を歌った曲だと嬉しくなりました。
喜びはまだありました。ホテルに帰ると前の広場に幾張りもテントがかかっていて、蚤の市をやっています。CDショップも出ていてダメもとでメモを片手に「このCD無い?」と聞いて回りました。3軒目だったでしょうか。「あるよ」と民族衣装をまとった若い男女とアコーディオン、バラライカのカラー写真でカヴァーした“いかにもロシア民謡”という一枚を見せてくれました。ロシア語は読めないのですが、ガイドが書いてくれたメモのロシア語とCD裏側の曲名を照らし合わせると確かに。ただ旅の途中なのでプレーヤーもなく、その後、モスクワまで汽車で移動、ロシア旅行を終えて帰宅、「いの一番」に聴いたのは言うまでもありません。あの曲、ズイキナフという歌手の歌う「まわりは全て草原」、間違いありませんでした。私は勝手に「草原にて」という曲名をつけて
楽しんで聴いていました。日本でも知っている人はあまり居ないだろうなと、ちょっと鼻を高くして。
ところが、何かのきっかけで加藤登紀子のリサイタルに森繁久弥が飛び入りで参加、「ロシア民謡の名曲、“草原”を歌った」と検索画面に出ているのを発見、まさかあの曲ではないだろうな、と加藤の歌を聴いてみると、正にあの曲。自慢の鼻が一度に折れました。検索画面は更に「加藤登紀子が1971年にロシアの曲を集めたアルバムを作り、ロシアを愛する森繁に送った。彼はシングルレコードとして発表した、とのことでした。
「誰が聴いても良い曲は良い曲なんだ」と負け惜しみを言って、“草原”をご紹介します。インターネットで聴く事ができます。
ズイキナフのCDを持っている人は少ないと思いますが、、、、、。
出野徹之(KTV)