長い冬を過ごすスカンジナヴィア諸国の人たちは緯度の高い地域に住んでいるで、冬の日照時間も短く、クル病の心配もあれば、1日中曇天、昼の最中でも薄暗く、雪の中の行動範囲も限られて、ウツ病の発症も多い。買い物にも苦労が多い。いうなれば現在のコロナ対策の外出見合わせの中、買い物だけに外に出る状態に似る。
こんな状況では、人々は互いに連絡を多く取り合い、挨拶ではハグしたり、ほっぺたをつけ合ったり、両頬にキスを交わす。人に遭うことがこんなにも嬉しく感じる季節はない。この接触関係は、今のコロナの3密の一つに相当する。欧州のコロナ感染が早く広まったのは、東洋人と違って、お顔への接触、キスやハグの習慣のせいだと、私は思っています。
実はこの行為、ハグするときには嬉しい気持ちで「幸福ホルモン・オキシトシン」が頭の中で形成されます。キスも同様です。代わる代わる両頬にキスをすることをビスビスというのですが、口には出さねど「まあ嬉しい」の表現ですから、ドドっと幸福ホルモンが出るのは、北欧のくすんだ冬の雰囲気の中では、特別に嬉しい感覚に違いありません。
北朝鮮からの第2次帰還者の中にアメリカの脱走兵と烙印を押されたジェンキス曹長が空港に到着しました。タラップを降りるのも待ち遠しく、妻の曽我ひとみさんが駆け寄り、人前では珍しいブッチューンの大キスで抱き合いました。瞬間、鬼の涙と言えば言え、私は感動で大粒の涙を流してテレビを見守っていたのでした。どの映画シーンよりも感動しました。これはオキシトシンの爆発の余波が私に届いたのでした。後日、米軍当局もジェンキンスさんの軍事裁判を免除して恩赦を与えました。アメリカでなくても味方を助けない敵前脱走は軍務上の大罪なのですが、あのシーンはアメリカ当局をも動かしたのでした。
このように、会わなくてもオキシトシンは出ます。優しい会話を交わし合うとか、とりとめがなくても良いから親しい仲間や家族での会話を交わし合う、何となく声を聞くことで「幸福ホルモン・オキシトシン」がドドっと出るのです。或る日、六甲山牧場で囲い中にいる馬に優しい声で話しかけた私に、馬が恋をしたのです。発情期でもないのに私の腕の長さになったオチンチンを見せられ、どれだけ私は驚いたことか!!
今の、家に引きこもりの毎日こそ、人が恋しく誰かに話したい時には、尻込みしないでどしどし声を出して電話してみてください。受話器を通して、電話の声が帰ってくるその声はきっと嬉しい声でしょう。お試しあれ。オキシトシンを撒き散らしてみよう。これって単なる電話魔と違いまっせ。
(伊藤妙子)