第29回定例懇話会 「創作落語で“終活”を伝えます」

第29回定例懇話会(2017年3月3日)

 「創作落語で“終活”を伝えます」

 素人落語家(行政書士)天神亭きよ美(本名 生島清身)

 遺言や相続をテーマにした講座や講演会があるが、話が堅苦しくて面白くない、わかりにくい、退屈だといった声が良く聞かれる。私は行政書士だが、繁盛亭の落語講座2期生で多少は落語の心得があり、”終活”を創作落語にしたら相続問題を伝えやすいのではないかと思い立った。それがこれから聞いていただく「天国からの手紙」で、あの世とこの世の2つの場面で構成されている。登場人物は死んだお母さん、長男の一郎、次男の次郎、長女の花子、それに天国の入り口にいる案内人の4人。話はお母さんが死んで、天国の入り口に来て、案内人に出会うところから始まる。

創作落語「天国からの手紙」

(お母さん)「えらいきれいなところやね、ここ、どこでんの」

(案内人) 「天国の入り口です。病院で管を仰山つけられて、心配してたんです。やっと死ねて、おめでとう」

(お母さん)「あんたの仕事、何でんねん」

(案内人) 「三途の川の手前で、この世でやり残したことがないか確認することです。遺言書を書かずにここにきてしまって、遺族が相続でもめることがよくあるんです」

(お母さん)「私も書かんとあかんと思いつつ、そのままにしてここに来てしまいましてん。残すものといっても、長男と同居していた家と土地、それに銀行預金が200万円と100万円の2口座だけです。家は長男に渡してくれと次男と長女にはよく言い聞かせてましたから大丈夫や、思ってます」

(案内人) 「これは絶対もめるケースです。ここから下界がのぞけますから見てごらんなさい」

(お母さん)「ほんまや!」

(次郎)  「お葬式の費用、お母ちゃん、残してるやろか」

(一郎)  「お母ちゃん、今、息を引き取ったばかりやで。それが葬式の費用がどうの、とか、お前、恥ずかしゅうないんか。お母ちゃんが聞いたら悲しむで」

(花子)  「兄弟3人は平等に遺産を相続する権利があるんやで。家は一郎兄ちゃんに、なんて、私ら何ももらえへんなんて不公平やわ」

(お母さん)「一郎は優しい子や。もめごとはええ加減にして、早う葬式してくれんと、遺体の肌艶がどんどん悪うなるわ。あの花子にはぎょうさんお金を使いました。アイチベンジョ(ITベンチャー)の社長との結婚式では見栄張って、500人も呼んで。定年後、お父さんと世界旅行をしようと貯めていたお金を全部つぎ込んでしもうたわ。次郎もなんか言ってるがな」

(次郎)  「カエデ銀行の預金100万円は葬式代にすればいいのに。ポチの世話をお願いした向かいの良子さんに渡してくれなんて納得でけへんわ」

(案内人) 「やっぱりもめているようですね」

(お母さん)「どないしたらええんやろ」

(案内人) 「遺言書を書いたらええんです」

(お母さん)「今からでも間に合うやろか」

(案内人) 「まだ三途の川の手前ですから大丈夫です。自筆遺言証書を書きましょう。そこにあるコンビニのヘブンイレブンで、紙とペンを買ってきてください。相続人の子供3人の名前を書き、相続させる財産の内容を書いてください。良子さんへは遺贈する財産として100万円を記載してください。遺言書とは別に手紙を書いておきましょう」

(お母さん)「はい、書けました」

(案内人) 「瞬間移動でこれを病室へ届けて帰ってきてください。あれ、早速、開封厳禁と書いた遺言証書を花子さんが見つけはりました。これを開封せずに家庭裁判所に持ち込めば、正式な遺言書として扱われます。手紙は開封しても構いません」

 手紙の概要は以下の通り。

花子へ・・・花嫁姿がきれいだった。旅行の費用を全部使ってしまったが、後悔はない。これからも旦那と仲良く、幸せな家庭を築いてください。次郎へ・・・あんたは勉強が良くできて私の誇りだった。留学もさせてやり、希望の仕事に就けて本当によかった。ポチの世話もよくしてくれたが、マンション住まいだから、ポチは良子さん預けましょう。一郎へ・・・この1年、介護を一手に引き受けてくれて、ほんまに感謝している。小さいころから気のつく良い子で、地元の優良企業に就職し、家計をよく助けてくれた。古い家だが、このまま一郎に住んでもらいたい。次郎にも花子にも残してあげるものはないけれど、きっと理解してくれるでしょう。兄弟3人、仲良く、助け合って生きてください。母より

(花子)  「兄ちゃん、お母ちゃんの家、大事に住んでやってね」

(次郎)  「ポチのこと、良子さんによろしゅう言ってね」

(案内人) 「うまくいったようですね」

(お母さん)「もう思い残すこと、ありゃしません」

(案内人) 「ほなら、三途の川、渡りましょうか」

(お母さん)「あーあー!待って!お父ちゃんのこと、すっかり忘れてた」

(TVO 中川民雄)

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