関西民放クラブの上村十三子さんが二冊目の本を書いた。「ハーブティーをもう一杯」である。
ここには上村さんの思い出話がいっぱい詰まっている。亡くなられた配偶者のこと、幼くして亡くなった妹さんのこと。
だが悲しい話ばかりではない。風の盆のこと、これまでに読んだ本のこと、家に迷い込んできたのら猫のこと、最近始めたダンスのこと、一冊の本を出したことで始まったいとこ会のことなど楽しい話もいっぱいで、しかもそのそれぞれが上村さんという筆者の周辺のせまい世界だけには留まらず、広い空に羽をひろげているのがとても嬉しい。
だからこの本を読んでいると、芳醇な香りが漂ってきて、秋の午後、日あたりのいい芝居の庭で、小鳥の鳴き声でも聞きながら、ロッキングチェアに座り、温かいハーブティーを楽しんでいる思いを味わうことになる。
これは人間が人間を描いた本。私にもあなたにも通じる話が静かな声で優しく呼びかけてくる本である。
上村さんをよくご存じの方は勿論のこと、ご存知のない人でも、一読すれば新しい発見と出会えること必条だ。しかも軽妙で伸び伸びとした筆致で語られていて、その先には懐かしい景色が待っている。ご一読をお勧めしたい。
(辻 一郎)
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