第23回定例懇話会  「米国とイラン~不安定化する中東情勢における対立と協調」

2015年2月6日


関西民放クラブ 第23回定例懇話会

 

「米国とイラン~不安定化する中東情勢における対立と協調」

同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科
中西久枝 教授 

 

イスラム的国家ではない

 みなさんはイランについてどのようなイメージをお持ちでしょうか。たぶん、実態とはかなり違うイメージだろうと思います。まず強調しておきたいことは、イランと他の中東諸国とは決定的に違うということです。イランの国語・ペルシャ語はアラビア語とは大きく異なり、むしろフランス語に近い語感です。人種もセム系ではなく、インド・ヨーロッパ系です。宗教的にはそれほど厳格ではなく、モスクに礼拝に出かける人は人口の1割にも満たないでしょう。暦はイラン暦を主に、イスラム暦と西洋暦の3つを併用しています。教育制度はフランス文化の影響を大きく受けています。お菓子屋さんに並んでいるのはすべてフランス菓子です。レストランではウエートレスが給仕しており、女性はおしゃれで、その地位も高く、大学教授の4分の1は女性です。イランは実はそれほどイスラム的な国ではないのです。

 

中東で最も安定した国家

 イランが他の石油産出国と違う点を整理すると以下の通りです。①長い立憲制の歴史を持ち、定期的に選挙を実施し、一定レベルの報道の自由がある ②外国人労働者に頼らず経済を運営している ③非石油産業がGDPの4割を占めている ④4500年の歴史に強い誇りを持ち、植民地になったことはなく、外国勢力排除の歴史を持つーーーことなどです。中東では最も安定した国家なのです。

 

経済制裁の影響は大きい

 1953年、イランのモサデク政権は石油産業を国有化しましたが、それに反発した米英はクーデターを行い、パーレビ王政が誕生し、親米政治が続きました。その王政を倒したのが「抑圧者からの解放」と「独立の精神」を掲げた1979年のイラン(ホメイニ)革命です。それ以来、反シオニズムを貫き、パレスチナではハマスを支持し、独立を守るため、アメリカの侵略をいかにして防ぐかが国是となってきました。その間に、アメリカ大使館人質事件、核疑惑問題などがあって、アメリカは36年間も経済制裁を続け、英国、日本などもそれに同調してきました。経済制裁の結果、インフレが進み、国民の実質収入はパーレビ時代の3分の1に下がり、生活苦の広がりで、体制批判も高まっています。若い世代にはイラン脱出を考える人が増えています。ただ、人口の2,3割を占める下層市民には政府やイスラム財団組織から補助金が出ていて、これが社会の不安定化を防ぐ役割を果たしています。36年間も経済制裁を受けても経済が破綻しないのは、湾岸諸国などとのインフォーマルな経済交流が多くの富をもたらしていることも寄与しているでしょう。

 

米との関係改善は近い?

 では、イランとアメリカの関係改善は進むのでしょうか。実は、36年の外交関係断絶の裏で手を握っていることもあり、アフガニスタン、イラク戦争においては協力しあった実績があります。イスラム国との戦いでもイランの革命防衛隊が地上軍を出せないアメリカの代わりをしています。中東で最も安定した国家イランは、今後のアメリカの中東政策で最も重要な国家になるでしょう。アメリカの最近のマスコミ論調もイランとの関係改善を模索する方向へ大きく舵を切っています。欧州では、イラン核問題の過程で起こったアメリカの一方的な経済制裁を見直すべきだという声が高まっています。このところイラン詣でが盛んで、イギリスは2011年に閉鎖した大使館の再開へ動いています。アメリカに追随するだけの日本はこのような動きに大きく後れを取っているというのが現状です。

(TVO 中川民雄)

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