定例懇話会(2014年6月6日)
「なおる痴呆 なおらぬ痴呆」
地方独立行政法人 大阪病院機構理事長 遠山正彌
脳の老化(神経細胞の脱落=死)は10代後半から始まっています。20代では毎日50万個、50代でも毎日20万個も死んでいます。しかし、年をとっても知的レベルを維持することは出来ます。それには脳機能を日常的に活性化させることが重要で、心を常にリフレッシュし、高血圧・動脈硬化などの危険因子を取り除くことです。
痴呆には大きく分けて加齢的変化と病的変化の2種類があり、病的変化の主なものはアルツハイマー病と脳血管性痴呆です。病的痴呆の特徴は忘れてはいけないものを忘れることです。例えば、家族とか好きなプロ野球球団とか、朝食をとった直後なのに、朝食をとったことを忘れたりすることです。単なる物忘れは痴呆とは関係ありません。
痴呆は認知症とも言われていますが、現在わが国には160万人の患者がいます。水頭症や硬膜下血腫などによる認知症は症状の改善は可能ですが、より深刻なのはアルツハイマー病、脳虚血、パーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などです。これらに効く薬はありません。よく、エーザイの薬が処方されますが、今日の入院を明日に伸ばす程度の効果しかありません。
我々もいろいろ研究してきましたが、新薬の開発はことごとく失敗しました。それではあまりにも希望がなさすぎるのではないかと思われる方には、朗報があります。ツムラの漢方薬「抑肝散」で、認知症、統合失調症、うつ病に効果があります。僕はもともと漢方薬は認めていなかったのですが、これには蒙を啓かれました。今のところ、ベストの薬でしょう。副作用もありませんし、予防薬として若いころから飲むという選択肢もあると思います。ポピュラーな漢方薬ですので、お医者さんにお願いすれば、だれでも処方してくれると思います。
最後に質疑応答が行われた。
Q ボケないために、これは食べた方がよい、これは食べないほうがよいというものはありますか
A 酒は飲まない方がよいでしょう。僕は飲みますけどね。酒もたばこも飲まないのに肺ガ ンで死ぬ人もいるんですから、まあ、酒は飲んでもいいじゃないですか。ただ、血圧の上昇は避け、コレステロール値を高める食物も避けた方がよいでしょう
Q 最近、人間ドック学会が血圧などの基準数値を緩和すると発表しましたが、信頼してよいですか
A 僕は古い数値の方がよいと思います。古い数値を基準にしておけば、数値が少々上がっても、大したことはないと済ませられますから。
Q 医学が進歩して、高齢者が増え、育ちにくい人が育って、いろいろな問題が出てきていますが、バランスのとれた医学の発達とはどのようなものでしょうか
A 難しい問題ですね。不死の薬を求めた秦の始皇帝以来、人間の欲望には限りがないですから。目の前の救える命は救った方がよいが、命への執着が強すぎるのは良くないと思います。自分はボケんうちに死にたいですね。
Q 低血圧の人はアルツハイマーにかかりにくいと聞きましたが
A それは俗説です。ただ、血管性の痴呆症もあり、脳に酸素がゆかなくなる事態は避けねばなりません
Q 先生はSTAP細胞はあると思いますか
A (即座に)ないですよ。あの論文を読みましたが、ムチュクチャ杜撰なんです。あの論文では、STAP細胞の存在は証明できません。
Q 認知症患者の行方不明者が多数発生していることが社会問題になっていますが、解決策はありますか
A, 患者にタグを付けておくことでしょうね。それから、警察や病院などで対応する人の本気度を高めないといけませんね。それにはやさしさを育む教育をしっかりやっていかねばなりません
(TVO 中川民雄)