春季懇親会 講演記録 福地茂雄氏

  
     変革の時代に生きる

  

                    元アサヒビール社長
                    元NHK会長
                    東京芸術劇場館長
                    福地茂雄
 
 1位グローバル、2位は変革
 
 ここ20年ほど、毎年経営者の年頭の辞に使われるキーワードに順番を付けていますが、今年は1位が「グローバル時代」、2位が「変革」でした。アサヒビールはグローバル化とは関係ないでしょうと言う方もありますが、そんなことはありません。東アジア、オセアニアは生産拠点であるとともに消費の拠点でもあります。1999年、アサヒの社長に就任した時の海外売上比率は1%で全くのドメスティック企業でしたが、今や10%を超え、グローバル企業に変身しつつあります。私たちの消費生活を見てもグローバル化が進んでいることがよくわかります、お寿司のチェーン店のHPを見ると、寿司ネタで国産と言えるのはタイ、アジ、ブリくらいなものです。それ以外は皆輸入ものです。
 
2位の変革ですが、これは貨幣の裏表のようにグローバル化と密接につながっています。人口の減少が進む中で、雇用をどうするかは大問題となってきますが、グローバル化を抜きにして雇用問題を語ることはできなくなっています。
  
  

 経験則に囚われるな
  
1957年、アサヒに入社したころからずっとビールの適温は4~6度Cといわれてきました。わたしがNHKの会長をしているときに―2度Cと極限まで冷やしたビールが出まして、驚いて営業本部長に電話しました。「そんな冷たいものは飲めたものではない」と意見したのですが、これが消費者に受けたのです。常識、経験則も大事ですが、それにとらわれすぎてはいけないという一例でしょう。
  
  

 想定外を想定内に取り込む
  
 「想定外」という言葉がよく使われたことがありますが、社長は使ってはいけない言葉です。そんな言葉で責任を回避するようではまともな経営はできません。「想定外を想定内に取り込む」時代になったのです。NHK会長時代、東京に直下型地震が起きたとき、どう対応するのか問うたところ、「放送センターの表に電源車と衛星放送車が常時待機していて、ビルがつぶれても放送機能は維持できます。電力確保も重要ですが、自家発電機はビルの地下、4階、屋上に分散設置してあります。東京がつぶれたら、1分以内に大阪放送局が代行します。」という。それでは東阪名が同時につぶれたらどうすると問うたところ、「福岡でも代行できるように準備しています」ということでした。
  
 

 視聴者満足度の最大化
  
 NHK会長に就任するとき、ビール会社から放送会社に転じることに戸惑いはないかとよく聞かれましたが、戸惑いはありませんでした。どちらも「B to C」の関係に変わりなく、アサヒにおける「顧客満足度の最大化」を視聴者満足度に置き換えればいいだけです。会長就任の1週間前、川崎にあるコールセンターを訪問しました。ここは視聴者から様々なご意見、ご要望、お問い合わせを受けるところで、この時は不払い運動の矢面に立っていたのですが、スタッフの皆さんに「聞き上手に徹し、お客様の声を心の耳で聞いてください」とお願いしました。
  
  

 ヨコ軸重視、情報の共有
  
 どの組織でもタテ軸の指揮命令関係は重視されますが、これからはヨコ軸の情報共有を意識してやらないと円滑に機能しない時代になってまいりました。NHKに入ってマスコミのタテ軸の強さには驚きました。政治部と社会部は仲が悪く、すぐ反目し合うのです。そこで新しく生活文化部という各部を横につなぐ組織を作り、女性部長を抜擢しました。彼女には「あなたの仕事は、しなければ何もない。政治部と社会部と密接にコミュニケーションをとり、NHK内に情報を共有する機運を高めてください」とお願いしました。
  
  

 変革の兆しは現場に
  
 私はとりわけ現場を重視する男です。「変革の兆は現場にあり」と確信し、「現場で現物を現実に」の3現主義をモットーにしています。気になることがあれば、必ず現場に行って自分の目で確かめることにしてきました。問題解決のヒントは必ず現場にあります。NHKでもこれを実践しました。堺屋太一さんは「入りやすい入口には出口がない」と言っています。難しい課題であればあるほど挑戦のし甲斐があるというものです。変えてはいけないものもあることを念頭に置きながら、常識に囚われることなく、グローバル化した変革の時代を生き抜いて行きましょう。
  
                           (TVO 中川民雄)

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