笑福亭松喬師匠の講演「わたしのがん闘病記」
秋季懇親会の講演は落語家、笑福亭松喬師匠が語るがん闘病記。末期の肝臓がんと告知されながらも、舞台は休まず、最新医療の恩恵を受けながら、「奇跡は起きるものではなく、起こすものである」と、がんと闘っている姿は、会員諸氏に多大な感銘を与えた。
奇跡は起こすもの
松喬師匠のがん闘病記
昨年の12月15日、末期の肝臓がんと告知されました。肝臓は沈黙の臓器といわれます。私の場合も痛みはありませんでしたが、打ち上げで飲んだ酒が抜けない、疲れがなかなか取れず、だるくてしかたがない。異変が起きていると感じました。しかし、還暦記念の舞台がびっしり詰まっていて、なかなか病院に行けませんでした。12月11日に大きな会が最終日を迎え、やっと大きな病院(成人病センター)に行くことが出来ました。その検査結果、肝臓に6.5センチのがんがみつかり、それは門脈まで達しているというのです。手術は不可能。治療するのも1つの策だが、治療しないのも1つの方法だと言われました。治療が余命を短くするリスクもあるというのです。このまま死んでしまうのか、恐怖で目の前が真っ暗になりました。
ネクサバールが効く
八方手を尽くしました。門脈のがんで治療実績のある神戸大の医師には、「この検査数値では手術はおろか、抗がん剤治療もできない」といわれましたが、成人病センターでPET検査を受けたところ、「がんの源発地が肝臓の肝臓がんだから、治療法があるかもしれない」という診断でした。カテーテルで抗がん剤を肝臓に直接注入する治療を受けましたが、がんは大きくも、小さくもなりませんでした。しかし、その後、飲んだ抗がん剤が効きました。これはがんを消すことはできませんが、大きくしない、うまく行けば縮ませることが出来る薬です。米国製の「ネクサバール」という新薬ですが、大変高価で1錠6800円、1日4錠飲みます。1月飲んだら816,000円です。PET検査は安くなったと言っても10万円かかります。がん治療には大変お金がかかることを痛感しました。
笑いは免疫力を高める
こうした治療の間にも舞台の日程はたくさん入っていました。芸人として約束が守れないほどいやなことはありません。舞台に立ったら病人とは見られたくありません。いくらしんどくても明るく舞台を務め、お客さんにたくさん笑ってもらうのが、最強の抗がん剤になっているのかもしれません。担当の医師は、テレビのドキュメンタリー番組で私の姿を見て、「笑いは人間の免疫力を高めるんですね」、「これからもどんどん舞台に出て、お客さんを笑わせてください」と言ってくれました。
今はさらに新しい治療法を試みています。樹状ワクチンというもので、自分自身の血液から作ったワクチンで、体内でがんのみを狙って攻撃してくれる、身体に優しい薬です。副作用もありません。私の血液から30カプセルできました。2週間に2カプセルずつ注射するもので、まだ1回しかやってません。効くことを期待していますが、医者ははっきりしたことは言いません。200万円もかかるので勧めにくいのですが、期待を持たせてくれる薬だと思います。
かかりつけの医師を
がんは早く発見すると治りますし、安くつきます。がんを早期発見できるのなら、PETの10万円も安いものです。50歳を超ぎた弟子には10万円出すから毎年PET検査を受けよ、と言っています。もっと早く、良い医者の診察を受けたらよかったのに、と、後悔していますが、今さら言っても仕方ありません。皆さん、信頼できるかかりつけの医者を持って、身体の異変は早く見つけてもらって下さい。
これからも舞台を生きがいにして、がんと闘っていきます。ここまで生きてこられたのは、「笑い」と「気力」のお陰かと思います。「病は気から」と昔からよく申します。「奇跡は起きるものではなく、起こすもの」だと信じております。
(TVO 中川民雄)