第30回定例懇話会 「高齢期・こころの健康づくり」

第30回定例懇話会

「高齢期・こころの健康づくり」

同志社女子大学現代社会学部 社会システム学科教授 

日下菜穂子

 

 年をとることによって、人生が豊かになる。生きる意味を追求して、人生を心豊かにする生き方を「ワンダフル・エイジング」とよんでいます。ワンダーには新しい出来事との遭遇にときめく、驚き(ワンダー)に満ちたという意味があります。人生は、日々の変化の中で新しい自己と未来に出会う驚きに満ちていて、よりよく生きようとする人は、一生を通じて成長します。

 年をとると幸福感が増す

幸福を感じながら生きている人の比率を年代別に調査してみると、欧米では70歳代が最も高いのに対して、日本では30~40歳代が高いという結果が出ています。欧米では加齢とともに幸福感が上昇するが、日本では、年をとることによって病気のリスクが高まり、被介護者なることに過度におびえる傾向があるのではないでしょうか。

人は年をとると、実は幸福感が増すのです。体が衰え、人生に限りがあることを自覚すると、かえって幸せを感じる力が強くなります。病を持っているかどうかより、病気も体の衰えもすべて引き受け、この先どう楽しみながら生きてゆくのかを考えることが大切です。慢性疾患など病がなく、痛いところもない高齢者などほとんどいません。病気におびえながら長生きするのはもったいないではありませんか。

 ポジティブに未来を空想する

介護される時が来るのを心配している方が多いのですが、65歳以上の方は80%以上が介護なしで死を迎えています。元気な高齢者が多いのは世界に誇るべきことです。

心豊かに生きる術を考えてみましょう。まず「肉体」ですが、どう行動するか判断を迫られたとき、「できるか、できないか」より、「やるか、やらないか」ということを重視しましょう。楽観的で、ポジティブに未来を空想する人は健康寿命が延びます。「やったら何か面白そう」という旺盛な好奇心は人を元気にし、長寿をもたらします。

次は「精神」、心の持ちかたです。生きがいというと、何か神々しいものと思われる方もいると思いますが、簡単なことです。目の前にやるべきことがある、日々、何か用事があって、それを果たしたときに喜びを感じる。これが生きがいなのです。目的を意識し続ける力があれば、前頭葉が刺激され、脳機能の低下は穏やかになります。毎日、何か予定を持つとか、何か目標を立てるとかして、それを実行することが大事です。

 人と人との生き生きとした関わりこそ

3番目は「幸福を感じる」ということです。ここにいろいろな時代の映画写真が並んでいます。この中でどれを見るかは幸福感と関係しています。(その人の精神年齢がわかる)若い人は知らないものから見ていきます。見慣れないもののリスク度を感知するためです。しかし、40歳ころを境にして、年がゆくほど、知っている映画の写真に目が行きます。自分が知っているものは安心で、心地よいからです。今更新しい情報に接して何になろう。新しい情報より、心地よさが大事なのです。若い人なら失恋したら、死にたいと思うかもしれないが、年をとれば、変に感情が揺さぶられることが減り、あるがままを受け入れる知恵が発達します。情のコントロールが巧みになります。

4番目は「社会」です。これが一番のポイントですね。何のために生きるのかという「生きがい」や「喜び」は一人だと見えません。人生の意味や喜びは、人と人との生き生きとした関わりあいによって得られるものです。海外の文献によると、「ふれあう」とか「相手を思いやる行動」をすると、思いやりホルモン(オキシトニン)が分泌され、人は幸福になると言います。アンチエイジングもよいけれど、人生100年時代の現在、人は単に病気にならないこと、衰えないことだけでは幸せになれません。年をとることの素晴らしさを世の中に発信することが私のライフワークです。 

(TVO 中川民雄)

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