秋季懇親会の講演

秋季懇親会(2015年10月9日)

「北東アジアの未来と民間外交の可能性」

認定特定非営利活動法人 言論NPO

代表 工藤泰志

 

 私は2001年に、議論の力でこの国の閉塞した状況を変えようと、言論NPOを立ち上げました。言論NPOは、政府や特定の利害からは一線を画し、中立的な立場で活動する非営利のシンクタンクです。設立以来、多くの方々に支えられ、この国と世界が抱える多くの課題に真正面からぶつかって来ました。現在、日本を取り巻く北東アジアは非常に不安定な状況にあり、中東と並び、世界の2大リスク要因となっています。今こそ、議論の力で「強い民主主義」と「強い市民社会」を作り出すことが急務であると痛感しています。

なぜ、民間外交が必要か

 外交は本来、政府の仕事ですが、最近、政府ではできない領域があることがわかって来ました。メディアやネットなどによって反日感情が煽られ、硬化した世論の動きによって政府外交が停止に追い込まれるケースが頻発しています。このような時こそ、国境を超えて、課題の解決に当たる新しい仕組みが必要になります。我々のような民間の出番なのです。相互憎悪から相互理解へ転換すること、世論を健全な声に変え、平和を作る方向に導かなければなりません。私はこれを「言論外交」と名付けました。

北東アジアに平和を

 北東アジアに平和を作りたいのです。そのためには、中国、そして韓国と、さらには米国も巻き込み、対話する環境を作り、本気の議論ができるようにならなければいけません。日中韓の国民は相手国のことをあまり知りません。相手国に行ったことがない、相手国に知人がいないという人が90%に達しています。だから相手に対する感情はテレビなどの間接情報によって形成されていることが多く、中国では反日抗日ドラマがたくさん放送されています。
 もうひとつは問題なのは、中国、韓国との戦後外交はほとんどが秘密外交だったことです。感情的になりやすい世論が怖いから、外交交渉の中身を伏せていることが多かったのです。そこに危うさがあるのです。4年前、尖閣諸島問題が起きたとき、このままでは大変なことになると思いました。実は日中正常化の時、周恩来は日本の尖閣諸島の実効支配を認め、その根本的な解決は将来の国民に委ねよう、と問題を先送りしたが、それは公にされませんでした。だから、多くの中国人は日本に尖閣諸島を力で奪い取られたと思いこんでいます。中国で世論調査を実施したところ、50%の人が「日本は軍国主義」、60%が「日本は覇権主義の国」と答えています。こうした歪んだ世論を健全な方向に戻したい、ここは民間人が動かなければならないと思いました。

中国と不戦の誓い

 10年前、日中関係が極めて悪化し、中国で大規模な反日デモが発生した2005年、言論NPOは中国との民間対話「東京―北京フォーラム」を立ち上げました。このフォーラムは毎年1回、途切れることなく開催されてきました。2013年の第9回フォーラムでは尖閣諸島における対立を念頭に、中国側と「不戦の誓い」を発表し、いかなる状況においても対話の力を用いて課題解決に取り組んでいくことを誓いました。「日中で唯一の頼れる民間外交の舞台」という評価をいただきました。
 2013年からは韓国と「日韓未来対話」を創設し、両国間の問題を議論しています。これは公開の円卓会議方式で行われ、毎年、約200人の一般聴衆が参加するほか、インターネットでも中継されています。これまでも専門家同士では行われてきましたが、これほどオープンな形で実施されている対話は他にはありません

23日から東京―北京フォーラム

 「言論外交」は世論と連動した新しい民間外交です。民間が当事者として課題の解決に取り組み、それをオープンに発信することで世論を動かすのです。10月20日には「日米中韓4か国対話」を東京で開催します。さらに、同23,24,25日には北京で「第11回東京―北京フォーラム」を開き、北東アジアの安全保障や中国経済の構造改革問題などについて本音の議論を戦わせることにしています。健全な世論を喚起することによって、課題解決に向けて政府外交を後押ししたいと考えています。

(TVO 中川民雄)

 

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