徒然なるままに  民族の正月

 

徒然なるままに  民族の正月

  正月、シンガポールで一緒に仕事をした、カメラマンのゴードンから年賀状が来ました。メリークリスマス&ハッピーニューイヤーと印刷してあり、更に「恭喜発財(おめでとう・お金が儲かりますように) 新年快楽」と手書きしてあります。彼は中華系のシンガポール人なので中国式に新年の祝い言葉を書いてくれたのです。「恭喜発財」なんて如何にも中国的で面白いですね。

 シンガポールには大きく分けて中華系、マレー系、インド系の民族が住んでいて、それぞれの民族の祝日が国の祝日になっています。勿論一番多いのは中華系の人々ですからチャイニーズニューイヤー(旧正月・春節)が最も盛大です。

 次に多い民族、マレー系には一ケ月の断食という宗教行事があります。多くの企業のドライバーはマレー系の人が多く、関西テレビシンガポール支局にもモハマッドという中年のオジサンドライバーが居ました。断食の間は日中、食べ物は勿論、水分も最低限しか摂りません。多くのドライバーが居る駐車場ではコンクリートの床にゴザを敷いて体を休めています。私も断食の間はなるべく、車を動かさないように、と気遣っていました。断食が明けると「ハリラヤプアサ」というイスラムの祝日が待っています。

 日本人は「マレー正月」と言っていましたが正に日本の正月と同じ、マレー人街では晴れ着や食べ物が山と積まれ、買い物客で賑わいます。またこの時期にはオープンハウス(空き家あります、ではない)という習慣があってお互いの家に招待しあいます。断食が明けて盛大に食事ができる事を一緒に喜ぶ、良い習慣ですね。私もモハマッド家に招待され家内と訪問しました。奥さん、娘さんら大勢が迎えてくれハリラヤの料理を頂きました。中でも美味しかったのが「レンダン」という牛肉を煮込んだ料理、勿論マレー料理ですからスパイスも効いています。牛肉を長い時間ゆっくり煮込んで作るそうで口に入れるとホロホロと溶けるようで初めての味に感動したのを覚えています。

 オープンハウスは様々な所で行われます。1993年3月、ブルネイの王宮でオープンハウスがあると聞きつけ取材許可を取ってボルネオ島に飛びました。何せ世界一のお金持ちと称されるボルキア国王のオープンハウス、その時、ブルネイに居る人なら誰でも王宮に入れ王族と握手が出来るというのですから願っても無い撮影機会、国王以下、男子王族の現われる部屋でスタンバイします。髭をたくわえたボルキア国王は中々の好男子、支局のモハマッド運転手は国王のファンで「チャンティック(かっこいい)」と言います。時間になり金ぴかの衣装を着けたボルキア国王を先頭に王子たちが7.8人所定の場所につくと係員に先導されたブルネイの人たちが一列になって王族一人一人と握手、中にはサンダル履きの男性もいます。

 握手が終わった人々は、王室のディザインされたクッキーの箱をお土産に頂いて王宮を出ます。でもこれで終わり、ではありません。回教国ブルネイではオープンハウスの謁見も男女別々、人々は、今度は女性王族の列へと向かうのです。私たち取材班も「折角来たのだから」と男性王族の列で握手、クッキーの後、女性王族の列で握手、クッキーの行事に参加しました。今は無くなってしまったのですが、当時東南アジアでは「ヤオハン」という日本のスーパーマーケットが各国に出店していて王室御用達のクッキーも「ヤオハン」の製品でしたが、シンガポールに帰って、モハマッド運転手にひと箱進呈したところ、大喜びでした。

 1月22日が中華正月の元日、断食は3月から4月、シンガポールでは今年も年中行事が行われる時期になりました。ゴードンカメラマンに「恭喜発財」と年賀状を書く事にしましょう。      

関西テレビ 出野徹之

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